
そういった方に向けて、電気電子工学科の高専生が、詳しく答えていきます。
この記事では、時定数の意味から、2つの導出方法、63%の由来まで詳しく紹介します。
編入試験や高専での勉強を通じて、「授業でこんな風に教えてもらいたかったな」と思えるような、わかりやすい解説を心がけました。
「時定数」は、高専や大学では電気回路で学ぶと思いますが、その先に習うであろう制御工学においても重要な単元となっています。
また、就職するにしても作った製品の性能を調べるのに必要になってくるので、しっかりマスターしていきましょう。
時定数の意味とは?

時定数(「じていすう」、または「ときていすう」とも言う)の意味とは、
簡単に言えば、
「立ち上がりの良さ、応答性の良さ」
を表しています。
また、より具体的、定量的に言えば、
「過渡現象における定常値の約63%に達するまでの時間」
という風に表したりもします。
つまり、時定数が小さければ小さいほど、反応が早くなるということです。
逆に、時定数が大きければ大きいほど、反応が悪くなるということです。
ここからは、なぜ、63%という基準でとっているのか、そして、どうやってこの時定数を求めるのか解説していきます。
「予備知識」過渡現象について

時定数を説明するには、電気回路の「過渡現象」について理解する必要があります。
ここでは、その「過渡現象」について、簡単に説明します。
過渡現象とは、
「ある定常状態から別の定常状態に移行するときに起こる非定常的な現象のこと」です。
ここで、は?ってなると思うので、もっと噛み砕いて説明すると、
「スイッチをONからOFFに切り替えたときに、一気にON状態からOFF状態に変わらなくて、徐々にOFFに切り替わる現象」
という現象のことです。
身近な例で例えると、
お風呂上がりに髪を乾かすために、ドライヤーを使うと思います。
そのときに、ドライヤーの風を『hot』→『cool』に切り替えても、すぐには冷風に変わりませんよね。
冷風に切り替えてから、しばらくしてから冷風になりますよね。
そうです。あの瞬間こそ、過渡現象なのです。
過渡現象がなんとなくわかったところで、次はRL直列回路で実際にどのように、時定数が表されるのか見ていきましょう。
RL直列回路の例

まず、図のようなRL直列回路を考えます。
初期条件はi(0)=0とします。
ここで、t>0においてスイッチを閉じたとき、回路方程式は
$$E=Ri(t)+L\frac{di(t)}{dt}$$
となります。この記事では、途中式を省略しますが、この回路方程式を解くと、
$$i(t)=\frac{E}{R}(1-e^{-\frac{R}{L}t})$$
という風になります。
ここで、この回路の時定数は、eの累乗部分の係数R/Lの逆数である
\[\tau=\frac{L}{R}\]
となります。
これが、時定数の公式です。
つまり、過渡解がe^-atのとき、時定数はτ=1/aとなります。
次は公式を用いずに求めてみましょう。
導出方法1 原点からの接線から求める

ここからは、公式を使わない時定数の導出方法を2つ紹介します。
まずは、原点から接線を引いて、時定数を求める方法です。
1 まず、原点から接線を引き、定常値と交わる点をA点とする。
2 ここで、原点からA 点までの時間が時定数になる。
計算式で見てみましょう。
まず、電流のグラフに原点から接線を引くと、
原点(t=0のとき)における微分係数は、
\[i'(0)=\frac{E}{L}\]
であり、接線の方程式は、
\[y=\frac{E}{L}t\]
ここで、原点からA点までの時間は、y=E/R(定常値)を代入すると、
\[\frac{E}{R}=\frac{E}{L}t \Leftrightarrow t=\frac{L}{R}\]
t=τとすると、
\[\tau=\frac{L}{R}\]
さっきの時定数と一致してます!
導出方法2 任意の接線から求める

2つ目の方法は任意の点からの接線からでも求められるというものです。
1 まずは、任意のA 点から接線を引き、定常値と交わる点をB点とする。
2 B点での時刻T2からA点の時刻T1を引いたT2-T1が時定数となる。
\[\tau=T_2-T_1\]
計算式でも見ていきましょう。
まず、任意の点、A点から接線を引きます。
A点の時間をT1とすると、A点での微分係数は、
$$i'(T_1)=\frac{E}{L}e^{-\frac{R}{L}T_1}$$
すると、A点での接線は、
\[y-i(T_1)=i'(T_1)(t-T_1)\]
となるので、
$$y-\frac{E}{R}(1-e^{-\frac{R}{L}T_1})=\frac{E}{L}e^{-\frac{R}{L}T_1}(t-T_1)$$
ここまでが、A点での接線の方程式です。
ここで、この接線にB点の時間T2を代入すると、y=E/Rより、
$$\frac{E}{R}-\frac{E}{R}(1-e^{-\frac{R}{L}T_1})=\frac{E}{L}e^{-\frac{R}{L}T_1}(T_2-T_1)$$
となり、まず左辺を整理すると、
$$\frac{E}{R}e^{-\frac{R}{L}T_1}=\frac{E}{L}e^{-\frac{R}{L}T_1}(T_2-T_1)$$
となり、さらに約分しつつ式変形をすると、
\[T_2-T_1=\frac{L}{R}=\tau\]
となり、今までに導出したものと一致しました!
実は、どの点でA点をとっても、同じ値になります。
つまり、この導出方法だと、値が一定となる定数となるので、時定数の定義となるのです。
どうして63%なの?
時定数の意味や導出方法はここまで説明してきましたが、
冒頭で述べた、「過渡現象における定常値の約63%に達するまでの時間」の63%はどこからきているのでしょうか。
まずは、1のグラフを見てみましょう。

先ほど求めた時定数τ=L/Rを電流iに代入してみましょう。
すると、
$$i=\frac{E}{R}(1-e^{-1})$$
となります。
これを定常値E/Rと比較すると、
\[e^{-1} \simeq 0.368\]
より、
\[\frac{\frac{E}{R}(1-e^{-1})}{\frac{E}{R}}=1-e^{-1} \simeq 0.638\]
はい、約63%という数字が出てきました。
ですので、ここから「過渡現象における定常値の約63%に達するまでの時間」の63%がきてるのです。
まとめ
ここまでの時定数の意味、公式、導出方法をまとめると、
・「立ち上がりの良さ、応答性の良さ」
・「過渡現象における定常値の約63%に達するまでの時間」
過渡解e^(-at)のとき、
時定数τ=1/a
1 まず、原点から接線を引き、定常値と交わる点をA点とする。
2 ここで、原点からA 点までの時間が時定数になる。
1 まずは、任意のA 点から接線を引き、定常値と交わる点をB点とする。
2 B点での時刻T2からA点の時刻T1を引いたT2-T1が時定数となる。
\[\tau=T_2-T_1\]
以上となります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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「公式として指数部分の逆数になるのは知ってるけど、意味わかんない! 」